学会情報

中国史史料研究会 会報第14号:試し読み

表紙は中国 内モンゴル自治区のフルンボイル草原の風景。


赤坂恒明「苟且図存(かりそめに存を図らんとせば)―内モンゴル大学における一日本人モンゴル史研究者の教育活動―(一)」

モンゴル民族が世界で最も多く居住している国は、ウランバートルを首都とするモンゴル国ではありません。中華人民共和国です。
中華人民共和国におけるモンゴル民族の居住地域には、民族自治区として内モンゴル自治区が、民族自治州として青海省に海西モンゴル族チベット族自治州、新疆ウイグル自治区にバインゴル・モンゴル自治州とボルタラ・モンゴル自治州が、そして、さらに八つの民族自治県が設置されております。
内モンゴル自治区の区都、フフホト(呼和浩特)市に位置する内モンゴル大学(内蒙古大学。略して内大)は、中華人民共和国におけるモンゴル学術研究の中心です。大学には、モンゴル学学院(蒙古学学院)、モンゴル学研究センター(蒙古学研究中心)という二つの研究機関と、モンゴル歴史学系(蒙古歴史学系。略して蒙歴系。この学系は学部に相当)という教育機関があり、モンゴル史研究の層は世界で最も厚く、モンゴル民族の多くの研究者・学部学生(本科生)・大学院生(研究生)が在籍しております。……


亀田俊和「亀田俊和の台湾通信 第15回」

今回は、台湾の気候について紹介したい。
2017年の4月上旬に初めて台湾に来たとき、京都の感覚でしっかり防寒対策をとっていたので、予想以上に暑くて驚いたという話はすでにした。その後も、台湾の夏は非常に暑いという話をよく聞いていた。
実際に8月に台湾に移住してみると、確かに噂に違たがわず非常に暑い。湿度も高いので、とても蒸し暑い。夜になってもずっと暑い。
しかし台湾はどこに行ってもエアコンが完備されているので、普通に生活する分には暑さはそれほど気にならない。むしろ日本にいた頃の方がしんどかった。大学生協の食堂で働いていたときは、真夏の丼どんば場・麺めんば場は地獄であった。駐車場に勤務していた頃も非常に暑く、ずっと日焼けしていた。帰宅しても電気代がもったいなくてエアコンをつけなかったので室内がサウナのように暑く、いつ熱中症にかかっても不思議ではない状況だった。
それに比べると、こちらは天国である。否、台湾のエアコンは日本のよりもなぜか冷房がきつく、長時間つけているとむしろ寒くなってくるほどである。「弱冷房」という概念がないのであろうか。……


山田崇仁「渡邉義浩『『論語』 孔子の言葉はいかにつくられたか』」

本書は、専門書・一般書を問わず、近年中国史・思想史について精力的に業績を刊行しておられる渡邉義浩氏(以下、著者と表記)の一般向け著作である。内容は、『論語』の成立とその利用・受容・解釈の歴史を論じたものである。よく似たテーマの著作として、21世紀の範囲では橋本秀美『論語:心の鏡』(岩波書店、2009年)があるが、本書は勤務先の大学の講義用に作成した内容がもとになっているとのことで、よりわかりやすい切り口で語っている印象を持つ。
本書とは別に、本書の執筆にも利用した著者の既発表の論文をまとめた専門書『『論語』の形成と古注の展開』も、2021年に汲古書院より刊行されている。本書で書かれた著者の主張を、より詳しく知りたい方には、そちらがお勧めである(参考文献も、より専門的なものも加えて紹介されている)。……


佐藤信弥「中国古代史の史料を読む 第1回:尽く書を信ずれば」

「尽く書を信ずれば、則ち書無きに如かず」。すなわち書の内容をすべて鵜呑みにしてしまうなら、書などない方がましだという意味である。出典は『孟子』尽心下である。格言としてよく知られている文章だが、この「書」というのは書物一般ということではない。その続きの部分も含めて引用してみよう。

尽信書、則不如無書。吾於武成、取二三策而已矣。仁人無敵於天下。以至仁伐至不仁、而何其血之流杵也。
【尽く書を信ずれば、則ち書無きに如かず。吾、武成に於いて、二三策を取るのみ。仁人は天下に敵無し。至仁を以て至不仁を伐つに、而るに何ぞ其れ血の杵を流さんや。】

「吾、武成に於いて、二三策を取るのみ」の「武成」とは、『尚書』(『書経』)の武成篇のこと。つまり「書」とは『尚書』を指しているのである。私は『尚書』の武成篇の中では竹簡二、三本程度の内容しか信用していないということである。以下の部分は、仁者は天下に敵がいないという、至仁と言うべき武王がその正反対で仁のかけらもない紂王を伐ったというのに、どうして戦死・負傷した将兵の血で杵が流れていくようなことになるのだろうかという意味である。武成篇は殷周の牧野の戦いについて述べているとされる。孟子が見た武成篇にはそうした描写があったのであろう。なお、「杵」とは臼を突く道具ではなく、盾を指すとする説がある。
それでは『尚書』武成篇を見てみよう。……


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