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学会情報
9.262022
中国史史料研究会 会報第20号:試し読み
表紙は大雁塔(陝西省西安市)。
赤坂恒明「苟且図存(かりそめに存を図らんとせば)―内モンゴル大学における一日本人モンゴル史研究者の教育活動―(七)」
内モンゴル大学モンゴル歴史学系からの就職の打診をめぐりましては、師兄ブレンサイン先生を介して一箇月以上にわたり、さまざまなやりとりがありました。そして、2018年1月上旬に内モンゴル大学に赴いて面談を行い、就労条件の取り決めを確定する、という手筈となりました。
この訪問については、思いもかけぬ横槍が入ることを避けるために事を隠密に進めるということで、表向きは学術講演を行なうためという名目と相成りました。そして、年明けの1月2日、ブレンサイン先生から電話があり、1月7日と8日の両日が指定された旨が伝えられました。
早速、往復の航空券を購入しました。このたびの渡航における航空便(すべて中国国際航空)は次のとおりです。
2018年1月6日(土)
東京 成田 8:55発 [CA158]
上海 浦東 11:30着
上海 浦東 19:10発 [CA1554]
呼和浩特(フフホト) 21:45着2018年1月9日(火)
呼和浩特 7:30発 [CA1102]
北京 8:55着
北京 15:50発 [CA421]
東京 羽田 20:05着
出発当日。上海では乗継ぎ時間が7時間と長かったのですが、飛行機の出発が2時間半ほど遅れ、フフホトに到着したのは0時前後。それにもかかわらず、空港には学部長ボヤンデルゲル buyandelger 教授ご本人と、私には十年来の知人である包文勝(ボルジギン・ムレンborjigin / borjigitai mören)副教授(当時)が、わざわざ私を迎えるために待っていらっしゃいました。日本語に堪能な若手講師が迎えに来ているものとばかり思っておりましたので、大いに驚きました。恐縮の至りです。……
亀田俊和「亀田俊和の台湾通信 第21回」
以前、台湾の新型コロナウイルス対策について書いたことがあるが、その後政策が変更されたので、今回はそれについて書こう。
今年に入ってから、台湾も結局ウィズコロナ政策に転じた。マスク着用や手の消毒といった日常生活はほとんど変化なかったが、外国人や帰国者の受け入れを緩和したのだろうか。このあたりの詳細はよく知らない。
すると突然、感染者が急激に増加し始めた。ピーク時は1日の新規感染者が5万人を超え、同じく死者数も100人以上だった。台湾の人口は約2000万人だそうなので、日本に換算すると1日30万人ほどが感染、600人以上が死亡していた計算になる。
それからまず、コンビニ等に入店する際に義務づけられていたスマホによるQRコードの撮影が不要となった。これはもともと感染者の移動ルートを把握するために行われていたのであるが、感染者の激増で無意味になったという理由らしい。
その代わり、別のアプリの装備が奨励された。陽性者の近くに2分以上いると知らせてくれるというものである。コロナが流行し始めた頃から存在したアプリだそうだが、遅ればせながらダウンロードした。私も今まで2~3回通知を受けたが、だからと言ってどうしようもない。普通の生活を続けるだけである。
やがて、簡易検査キットを購入することになった。指定の薬局に行けば無料か安価で購入できるとのことであるが(どっちだったかは忘れた)、台北市は市民に簡易検査キットを配る政府の政策に反対していたらしく(こういうところで党派対立が顕在化する)、売っている薬局はほとんどなかった。そこで隣の新北市の薬局に向かった。……
小檜山 青「中国絵画の世界へ『水都百景録』」
2022年6月、中国のLittoral Gamesより、『江南百景図』の日本版である『水都百景録』がリリースされた。明代の江南都市を再現する街づくりゲームであり、文徴明をはじめとして多くの歴史上の人物が登場する。乱世における戦争をテーマとせず、文化の復興をテーマとしている。
ジャンルとしては街を作りあげる『シムシティ』のような「都市経営シミュレーションゲーム」に該当するだろう。しかし、中国明代の都市経営とだけとらえていては、到底本作のテーマには辿りつけないだろう。
このゲームは、明を代表する画家である文徴明が絵巻を描くところから始まる。のんびりと街を作り続けるうちに、中国文化や芸術への理解が深まる工夫が随所に凝らしていることがわかってくる。このゲームの目的とは、プレイヤーからお金を取ることだけではないだろう。遊んでいるうちに中国文化に愛着を抱くことこそ、秘められた真意に思えてくる。
確かな時代考証と仕掛け
このゲームは、呉派絵画の画風を都市景観に用いていることが特徴である。わかりやすさを重視したためか、キャッチコピーでは「水墨画風」とされる。しかし鮮やかな色彩は水墨画とは異なることは一目瞭然だ。紅い壁に黒い屋根、咲き乱れる花に緑の柳。こうした色調は文徴明はじめ明代文人の作風に由来するとわかる。描きこまれた情景の考証も万全である。祠堂の香炉からは煙がたちのぼり、書院の机には文房四宝が置かれている。このゲームのロード画面には「文房四宝を用意しています」表示されるほどのこだわりだ。キャラクターに該当する「特殊住民」も気の利いたデフォルメをしている。文徴明を筆頭に、美青年にされている人物は多い。とはいえ、朱元璋は皇帝即位後の姿をしているし、玄奘は東京国立博物館蔵の「玄奘三蔵図」をもとにして描かれている。女性キャラクターも時代考証を重視し、無闇に若く露出度の高い美女ばかりではなく、抑制が効いている。黄道婆は老婆であるし、唐代の女性はふくよかな外見をしている。このゲームは女性の価値を若さと美貌だけに見出していないのだ。特殊能力である「天賦」も、その人物に適したユニークなものが実装されている。朱元璋が農作業をすると時間が短縮されるというのは、彼が建国の英雄として土地を開拓したという賞賛だろうか? はたまた彼が貧農の出であることを反映してのことか? 想像すると思わず微笑みたくなるような仕掛けが随所にある。……
山田 崇仁「中国古代史研究入門(その4)」
■はじめに
今回は、「出土文字資料(古文字)を読み説く」をテーマとした。
先秦期の出土文字資料とは、地下から出土した文字(以下、古文字と称す)資・史料を指す。古文字が記すのは、約3300~2000年以上前に使用された中国語(上古漢語)の書き言葉で、その多くは紙以外(骨・竹・木・絹・金属・陶器・石など)の材料に記される。
出土文字資料は、発掘によって獲得されるほか、盗掘品が骨董市場に流れるなどの手段で世に知られるものもあり、真偽について学術的検討を要するものもある(参照:小寺敦「「骨董市場竹簡」をめぐる諸問題」『東京大学東洋文化研究所附属東洋学研究情報センター報』25、2011年)。
古文字は楷書体より古い書体であるため、文字の形(字体)や書きぶり(書体・書風)が、楷書体といちじるしく異なる。それに加えて、現在では使用されない語彙(死語)も多く、発音・意味の解釈が困難な場合もあり、それらの解読に、専門的な知見が必要となる。
古文字を読み解く学問分野を「古文字学」と呼ぶ。古文字学は、字の形だけではなく、発音(音韻)や意味(義)といった言語に関する領域も対象とするが、それに加えて考古学・歴史学などの知見も求められる。
古文字は、それらが記された時代や材料によって、個別の名称を持つ。
例えば、殷代の骨(陸亀や牛・羊・鹿などの哺乳類)に刻まれた古文字は「甲骨文字」と呼ばれ、殷末から出現する青銅器に鋳込まれる・刻まれた古文字は「金文」と呼ばれる。更に戦国時代に降ると、竹や木に記した古文字の獲得例が増加する(竹簡に記す書写習慣は、殷代に遡る可能性があるが、考古的な最古の例が前5世紀後半にまで降る)。戦国時代には、地域毎に異なる書きぶりが見られるようになるため、それらを踏まえて、「楚文字」・「斉文字」などと呼んだり、まとめて「戦国(古)文字」と呼んだりもする。
そして、それら地域毎の書体や語彙を統一したのが統一秦期の「文字統一」政策であり、新たに制定された秦の公式書体(や語彙)を母体とし、その後800年以上かけて現在も使われる楷書体に変化したのである。……