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学会情報
7.32025
中国史史料研究会 会報第37号:試し読み

表紙は故宮(中国・北京市)。
赤坂 恒明「苟且図存(かりそめに存を図らんとせば)―内モンゴル大学における一日本人モンゴル史研究者の教育活動―(番外編)」
わが既発表学術論文のうち日本の皇族・皇胤に関する拙稿を集録した『前近代傍系皇族・皇胤研究』が、志学社から2025年6月30日付で刊行されました。志学社への納品は6月20日で、自宅へは翌21日に届きました。
ハードカバー400頁の割には価格が5300円(本体)と相対的に低廉です。また、表紙の装丁は、紺地に金文字で国立公文書館(内閣文庫)所蔵『山科家古文書』「応永三十年五月日付 柳原宮雑掌定勝申状案」をあしらった、格調高いものです。古文書好きの日本史研究者に「ジャケ買い」を促すのでは、とも思われます。このすばらしい表紙のデザイナーは、柳谷志有(nist)氏。名作漫画として有名な吉崎観音『ケロロ軍曹』各巻(Kadokawa Comics, 1999年11月~)単行本の表紙も手掛けているとの由です。
もっとも、判型が学術書に多い菊版でなく四六版であるため、自身の予想以上に文字が小さく、特に巻末の総合略系図は、人によっては虫眼鏡が必要となりそうです。
ともかく、先に刊行された一般向けの拙著、『「王」と呼ばれた皇族 古代・中世皇統の末流』(吉川弘文館、2020年1月)の研究編とも言うべき本論文集の刊行により、ひとまず、自身の日本皇族・皇胤史研究を社会に還元するという点で責任を果たすことができたのではないでしょうか。……
亀田俊和「亀田俊和の台湾通信 第37回」
日本は5月のはじめに大型連休があるが、台湾は4月はじめにある。今回、この連休を利用して台湾の南投県の山間部を旅行してきたので、それについて書いてみたい。
1日目。まずは早朝に台北駅の無駄にかっこいい巨大ロボットの出撃基地のようなバス停でバスに乗り、南投県の埔里鎮という町に向かった。ここまでは、以前日月潭という湖に行ったときとまったく同じルートである。と言うか、日月潭は今回の目的地と本来はセットで行くべき観光地であるらしい。
大型連休であることもあり、道中の高速道路で数回渋滞した。これは前回には起こらなかった現象である。台湾の人は本当に旅行好きである。加えて、この連休は清明節という日本のお盆に似た墓参りの時期であることも大きいだろう。
埔里鎮に到着。蒋介石の銅像が建っているロータリーなど、見覚えのある風景が出てきた。以前も書いたが、埔里鎮は人口8万人ほどのかなり大きな町である。また金門島の回で言及したように「鎮」は日本の町に相当する自治体であるが、市制を施行してもいいと思う。
この埔里で、有名なビーフンのお店に入った。基本的に、評判のよい飲食店はみんな混雑していた。焼きビーフンとスープのあるビーフンを注文したが、個人的には焼きビーフンの方がおいしいと思った。スープ入りビーフンもおいしかったが、少し味が薄かった。しかし、ネットの評価では焼きビーフンはパサパサしているとあまりよくないらしい。日本人と少し味覚が違うのだろうか。……
秋山陽一郎「紀元前中国書籍の揺らぎ(上)」
第一節 篇章字句のあらゆるレベルで揺らぎが起こりうる
繰り返しになるが、中国古代の書籍は作者による自筆の原本がはるか昔に失われている。今日の我々が二千年以上前の古典を読むことができるのは、たび重なる転写を経た写本や印刷物—伝世文献によってである。
では、二千年以上前の写本—すなわち出土文献をもってすれば作者の原本に一気に近づけるのかというと、残念ながら事はそう簡単ではない。黎明期(紀元前)の書籍あるいは写本は、現在の書籍や印刷物より遥かに篇章字句のあらゆるレベルで大きな「揺らぎ」が起こりやすく、内容も構成も著しく不安定だからである。
本稿では、①篇章数の揺らぎ、②章次の揺らぎと錯簡・脱簡、③内容の揺らぎ(同工異曲の説話、同一内容篇章の互見)、④タイトル(書題・篇題・章題)の揺らぎなど、黎明期の書籍における具体的に起こり得る揺らぎの種類について、その類型ごとに取り上げる。
第二節 伝本ごとに異なる内容構成:篇章数の揺らぎ
前漢末劉向が校定した書籍につけられた「序録(目録、録)」と呼ばれる解題に、彼が校定本を作成する際に収集・参照した異本のリストが掲載されていることがある。いま、そのうちの比較的完備した『管子』『晏子』『列子』序録の該当個所を確認してみると、紀元前の書籍は伝本ごとにその篇数が異なり、相互に含まれない篇章を持っていることが少なくなかったことがわかる。……
佐藤信弥「第36届中国文字学国際学術研討会参加報告」
はじめに
台湾の中国文字学会では年1回国際学術研討会(国際学会)を台湾各地の大学の持ち回りで開催しており、その他研習会(講習会)の開催なども開催している。この学会には2018年に国立中央大学で開催された第29届研討会以来の参加となる(第29届の参加報告は本紙創刊準備号を参照)。今回参加した第36届の開催地は国立台南大学である。日本統治時代の1898年に創立された台南師範学校が前身であり、今年で創立127年ということである。
今回エントリーした経緯は、昨秋上海の華東師範大学で開催された世界漢字学会第10届年会の際に開催の情報を耳にし、中国文字学会会長の余風氏から案内を送ってもらったことによる(本誌33号掲載の参加報告を参照)。今回の日本からの参加者には筆者のほかに立命館大学の大形徹氏、山梨県立大学の名和敏光氏、成蹊大学の宮島和也氏の計4名である。その他中国、香港、韓国、イギリス、フランスなどからも参加者がいた。ただ、中国からの参加者が第29届の時より減少しているように感じた。プログラムを見ると、今回は古文字や出土文献に関する発表が多い印象である。第29届では文字学一般に関する発表がもっと多かったように記憶している。……