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学会情報
9.22025
中国史史料研究会 会報第38号:試し読み

表紙は武陵源(中国・湖南省張家界市)。
赤坂 恒明「苟且図存(かりそめに存を図らんとせば)―内モンゴル大学における一日本人モンゴル史研究者の教育活動―(二四)」
内モンゴル大学モンゴル歴史学系への奉職が決まったフフホト訪問から、2018年4月8日、帰国しました。
随分と心労が貯まりましたが、これで一まず、安堵いたしました。この時世においては珍しい外国語会話能力皆無の研究者であるにもかかわらず、外国の大学に、日本語講師でなく専門職の専任教員として就職するというのは、戦後日本で初めての事例となるのではないでしょうか。
内モンゴル大学への就職については、出講先の大学の受け入れ関係者など、ごく一部の方がたにしか明かしていませんでしたが、内モンゴル大学学長の署名入りの雇用契約書類に署名して雇用契約が成立しましたので、これにてようやく「解禁」です。とはいえ、吹聴すべき話でもありませんので、知人たちにも、わざわざこちらから知らせるということもありませんでした。しかし、このたびのフフホト訪問を伝えた知人には、その帰朝報告において、初めて訪問の真の目的を報せました。……
亀田俊和「亀田俊和の台湾通信 第38回」
南投県旅行の2日目。まずは清境農場という牧場に行った。前日泊まったペンションからバイクで15分ほど進んだところにある。家族連れの観光客がたくさんいて、非常に混雑していた。前日のスイス庭園の様子から正直最初はたいして期待していなかったが(後で知ったが、牧場からスイス庭園まで歩いて行けるらしい)、結論から先に言うと予想以上に充実したすばらしい牧場であった。
この日は、台湾ではめずらしい雲1つない晴天であった。標高の高い場所なので、紫外線がきつい。日焼けして、戻るまで数日かかった。
この農場の目玉は、まずは羊の毛刈りショーである。オーストラリア人の白人の男性が羊の毛を刈るのを披露していた。テレビなどではよく見るが、実際に羊が毛を刈られるところを見るのは私も初めてである。羊がいつも嫌そうな顔をしているのを見ると、かわいそうに思う。私も子どもの頃亡父に坊主頭を強制されていたので、羊の気持ちがよくわかる。
ショーが終わった後、たくさんの羊たちに直接さわることができた。自動販売機で枯れ草のえさを買ってあげることもできる。私はしなかったが、子どもたちが競ってえさをあげていた。……
秋山陽一郎「紀元前中国書籍の揺らぎ(上)」
写本時代の書籍は、個々の写本の一字一句ごとに誤植(字句の間違い)・脱文(字句の脱落)・衍文(余計な字句の混入)・錯簡(字句の順序の錯綜)といった「揺らぎ」が入る余地が出てくる。今回は黎明期の書籍を語る上で外せない「錯簡」と「脱文」の事例から取り上げてみよう。
第四節 錯簡・脱簡
「脱簡」とは、以下に示すような竹簡の欠落のことである。
劉向が宮中所蔵の『古文尚書』によって歐陽氏(歐陽高)・大夏侯氏(夏侯勝)・小夏侯氏(夏侯建)三家の(『今文尚書』の)経文と校べたところ、酒誥篇に脱簡が一か所、召誥篇に脱簡が二か所あった。概ね一簡あたり二十五字の本は脱字もまた二十五字あり、一簡あたり二十二字の本は脱字もまた二十二字となっていた。(古文・今文の間で)文字が異なるところは七百か所余り、脱字は数十か所あった。(『漢書』芸文志・六芸略・書類序)
また文脈とは無関係に綴じ違いによって簡牘の順番が錯綜することを「錯簡」と呼ぶ。
錯簡の痕跡は実は伝世文献中にも残っている。たとえば『説文解字注』で著名な清の段玉裁(1815 ~ 1735)は『古文尚書撰異』の中で、現行『尚書』湯誓篇の中に「倒易」(転倒)——錯簡が見られるとして、『史記』殷本紀中に見える湯誓篇の文によって、その錯簡を修正している例が知られている。……